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映画レビュー「ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女」

日韓併合と戦後の狭間に消えた朝鮮王朝皇女の悲劇

大韓帝国王女をモデルに描いた歴史フィクション。本作をきっかけに、戦後、韓国本国でも長らくその存在を忘れ去られていた悲劇の皇女に再びスポットライトが当たった。

日本統治下の大韓帝国。初代皇帝の皇女として生まれた徳恵翁主(とっけおうしゅ)は、幼くして父を亡くし、13歳で日本留学を強いられる。かつて父がひそかに許嫁に定めていたキム・ジャンハンと日本で再会し、やがて抗日運動へと引き込まれていくが……。

ドラマチックな物語を激動の時代に生きたヒロインになりきって楽しむ

実在の人物をモデルとしてはいるが、この作品はフィクションとして楽しむのが正しいだろう。歴史的事実との齟齬はあまり気にせず、ヒロインになりきってドラマチックな展開に浸るのがおすすめだ。

チョゴリを着た女官たちが徳恵に一斉にかしずく様子は、もの悲しいと同時に花びらが舞い散るような美しさをたたえている。

第一次大戦と第二次大戦の狭間の時代、かつてモダンボーイ・モダンガールが闊歩した昭和初期の東京の街並みも素敵に再現されている。しゃれたカフェや洋館が並び、男性は三つ揃えの仕立てのスーツ姿、徳恵もシックなワンピースやブラウスに小ぶりな帽子でモダンガールの装い。

スリリングなクライマックスの逃走劇も見ものだ。ジャンハンとの絆を深め、支え、支えられて逃げる。決死で臨む隠れ家での銃撃戦に、砂浜での涙の結末。なんてロマンチック。ラブシーンなしでこんなに色っぽい逃避行は見たことがない。

そして何よりも、凛として美しく、どこに行っても人々に慕われる皇女、徳恵翁主。その存在そのものがドラマチックでロマンをそそる。

同胞であるはずの主人公を徹底的に貶める強烈なヴィラン

日本人との直接対決というよりむしろ、ユン・ジェムン扮するハン・テクスが主人公たちの直接の敵として立ちはだかる構図も興味深い。あくまで「天皇家」の代理という体をとっているが、これはこの時代の朝鮮側も必ずしも一枚岩ではなかったことを暗示している。

朝鮮王族のなかにも、上海への亡命を拒み、自分にとって居心地のよい日本に残ることを選択する王子もいる。 一部の朝鮮人高官は日本より富と階級を与えられ、それに固執する。ハンもその一人である。

自分の地位を脅かすものを徹底的に排除しようとし、相手が皇女であろうと容赦はない。徳恵の行く先々に現れては、彼女を叩きのめす。最初は名もない男だったのが、顧問から長官へと地位を上り詰めていく。日本敗戦後に米軍から優遇を受ける人間になっているという設定は、その後の朝鮮戦争での暗躍が暗示されて不気味だ。

政治の犠牲となり、踏みにじられてきたあまたの人々の涙

徳恵翁主は実際にはどのような人物であったか? ――残念ながら、資料が乏しく、それを本稿で論じることはできない。ただ、戦争、国家、政治に利用され、人生を翻弄させられた女性がいたことは確かである。

毎年夏になると、戦時中の人々の苦難の物語をいくつも読み、何度も涙してきたが、その時代に生きた人々は、庶民も上流階級の人間も、同じように利用され、打ち捨てられ、流転の人生を歩んできたという点では違いはない。

日本人としても、この戦後80年の節目に、戦争を自分事ととらえて、悲劇を繰り返さないために何ができるか考えてみたいと思った。

日韓の実力派を取りそろえたバランスのとれたキャスティング

最後にキャストの紹介を。

朝鮮人役には韓国人俳優が、日本人役には日本人俳優が配されている配役もいい。それぞれの役柄をそれぞれの立場から見事に演じきっている。

主人公、徳恵翁主には、『私の頭の中の消しゴム』(2005)で一躍日本でも人気を集めたソン・イェジン。ドラマ『愛の不時着』(2019)主演をきっかけに韓国、日本のみならず世界的に人気を博し、『世界で最も美しい女性2020』一位にも輝いている。

生涯にわたりヒロインを支える知性的で目元の涼し気なイケメン、キム・ジャンハンを演じるのはパク・ヘイル。映画『別れる決心』(2023)では、家庭がありながら殺人容疑者の人妻に惹かれる生真面目な刑事という複雑な役どころを演じきっている。

徳恵の腹違いの兄、英親王のたおやかな夫人、方子(まさこ)王妃は戸田菜穂が好演。

そして映画『少女は悪魔を待ちわびて』(2017)の温厚な刑事から、ドラマ『財閥家の末息子~Reborn Rich~』(2023)の大財閥の当主まで、あらゆる役柄をこなすオールマイティーな名優、ユン・ジェムンは、本作ではどこまでも主人公を追い詰めるにっくきハン・テクスを怪演している。


映画『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』

ホ・ジノ 監督 ソン・イェジン 主演

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川嶋ミチ

翻訳家、ライター。神奈川県生まれ。アジア、ヨーロッパの国々を飛び回り、出産を機に神奈川に舞い戻る。活字中毒。このサイトのキュレーターを務める。

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