映画・ドラマ

映画レビュー「台北暮色」

ありのままの台湾を静かに詩的に描写した不思議な魅力のある作品

孤独について思いを巡らせることができ、情緒的な映像で確かな余韻が残る

台北のある住宅街を舞台に、孤独感にさいなまれる3人の男女の人生が交錯するヒューマンドラマ。

シューは台北でインコを飼いながら一人暮らしをする女性。フォンは車中生活を送る中年男性で、便利屋のような仕事をしている。リーはシューと同じアパートに住む少年で、軽度の発達障害を抱えている。

それぞれの登場人物の孤独感や過去が、少しずつ交わり、静かに心を通じ合わせていく中で3人はどう成長していくのか。

人はどう孤独と向き合うべきか

本作の中心テーマのひとつは「孤独」だ。現代人は誰もが何かしらの孤独を抱えており、それを埋め合わせるように何かに熱中したりする。私は家族以外の交友関係が非常に乏しいため、絶えず孤独にさいなまれていた。

だが先日、愛犬を家族に迎え入れた。確かに手がかかり大変なことも多いのだが、一緒に戯れるだけで癒され孤独感がなくなり、愛犬に幸せな人生を送ってもらうために頑張ろうというモチベーションが上がり、日々の生産性は明らかに上がった。

やはり守るべきものがあると人は変わるのだと思った。ただ現時点では、私の至らなさが露呈することが多く、自分の無力感にうちひしがれる毎日でもあるが。だがそれも私の成長過程で、より頼もしい人間になりたいと心から強く思っている。

本作でシューが飼っているインコも孤独を癒す働きをしており、名脇役だ。人間との交流では犬猫が最も有名な動物だが、他の動物の「力」も侮れない。

例えば、我が家には愛犬以外にも20年程生きるカメがいる。その存在を忘れられる時もあるが、通るたびに足をバタバタさせて何かしらのアピールをしてくる。その姿にほっこりし自然と情も湧いてくるものだ。

このように本作はひょっとすると孤独を埋め合わせるための対象は必ずしも人間だけでなく、動物に依存してもいいというメッセージが隠されているのかもしれない。

静かな余韻に浸れる映像美

本作は派手な映像シーンがあるわけではないが、静かな台湾の街の日常が作品全体をゆっくりと流れている。映像作品に現実逃避を求めたい層には向かないかもしれないが、観終わった後にゆったりとした独特な余韻に包まれる。

私は日常を描いた作品として、『PERFECT DAYS』を観終わった後の余韻にどこか似ている感じがした。仰々しい演出に頼らずとも、あえて静かな日常を描くことで視聴者の心に確かな余韻を残す。

何の変哲もない台湾の街角や路地、鉄道、高速道路などが、静かだが詩的なアングルで捉えられ、私も思わず台湾に行ってみたくなった。

本作の監督ホアン・シーは台湾映画の巨匠ホウ・シャオシェンのアシスタントを務めていた経験を有する。ホウ・シャオシェンが『冬冬の夏休み』『恋恋風塵』などで詩的に都市の姿を映し出しているように、ホアン・シーも都市を登場人物の内面の鏡として機能させている点で、その意志は受け継がれているようだ。


映画『台北暮色』

ホアン・シー 監督 リマ・ジタン、クー・ユールン、ホアン・ユエン 主演

台北映画祭で脚本賞を含む4つの賞を受賞。金馬奨では主演のリマ・ジタンが最優秀新人賞を受賞。

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久米佑天

東京大学文学部卒業後、大手学習教材制作会社にて英語教材の校正・翻訳に携わる。現在は株式会社Aプラス専属校正・翻訳者としてさまざまなジャンルの文書と向き合う。これまでの訳書に『心理学超全史〈上・下〉―年代でたどる心理学のすべて』と『アンヌンに思いを馳せて:ウィリアム・ジョーンズの臨死体験に基づく物語』がある。

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