映画・ドラマ

映画レビュー「走れロム」

社会的メッセージ性が高いクライム映画

この絶望と隣り合わせのドラマチックな社会派映画では、さまざまな要素を内包する主人公の走りが印象的で、日本では考えられない独特な配役も見どころのひとつとなっている。

舞台はサイゴン路地裏の古い集合住宅。住民たちは詐欺師のような債権者から借金を背負い、生きていくために巨額の当選金が当たる可能性がある違法宝くじ「デー」に生活を賭けている。

主人公の14歳の孤児ロムは、宝くじの当選番号を予想する「予想屋」として生計を立てている。彼は生き別れた両親を探しながら、住民たちを債権者から救うため、一攫千金を夢見て危険な闇くじに挑む決心をする。

本当の願いである「両親との再会」を夢見ながらも、住民の期待を一身に背負いながら闇くじに参加したロムの運命は果たして?

絶望と隣り合わせの夢

本作では貧困層が夢見るサクセスストーリーとそれに対峙する厳しい現実が物語の中心にある。この類の話は元々恵まれた人のストーリーよりも、ドラマがあって魅力的に感じるものだ。

だが本作では、サクセスストーリーどころか下層が足を引っ張り合う出口の見えない社会構造が浮き彫りになり、厳しい現実がつきつけられる。

実際に、今は成功している有名スポーツ選手や俳優でも、不遇の子ども時代を過ごした人は少なくない。村の住人、友人、そして何よりも家族の期待を背負って、スターダムに駆け上がっていく様はどこか憂いがあって感動的ですらある。

だがこのような貧困層のサクセスストーリーが最後までバッドエンドを迎えないという保証はない。巨万の富を手にした輝かしいキャリアのように見えても、違法ドラッグ、ギャンブルなどの犯罪の誘惑が身近にある。

ブラジルのファベーラ(ブラジルのスラム街)を舞台にした『シティ・オブ・ゴッド』を幼少期に見て日本の環境との違いに衝撃を受けた。小さい時から死と隣り合わせで、強盗や殺人が日常茶飯事。そんな中、ギャングに入る少年も多い。

サクセスストーリーは確かに輝かしく魅力的なのだが、一方で本作のようにその社会が抱える闇も潜んでいることを忘れてはならない。

さまざまな意味を含有する主人公の走り

本作で印象的なシーンのひとつに主人公の「走り」がある。さまざまな要素がこの走りに集約されているように感じる。

まずロムは貧しい孤児で、違法宝くじの予想屋として生計を立てているため、借金取りや警察から逃れて生き抜くために走っているといえる。

次に村の住民たちを守ろうとしているのかもしれない。借金に苦しんでいる住民たちを救うために一か八か一攫千金を狙って走り続ける姿勢からは必死さが垣間見える。

そして失った両親を探すために走っているともいえる。きっと誰もが両親という偉大な存在の背中を追って成長していくものだからだ。

それ以外にもロムの懸命な走りは、貧しい路地裏の混沌性やストリートチルドレンの存在を浮き上がらせる演出的効果も兼ねているのではないか。

作品にリアリティを与える配役

本作の主人公を演じたチャン・アン・コアは監督の実の弟である。まずその配役からして斬新すぎて日本では考えられない。敢えて「素人感」を出すことによって、作品のリアリティが増している。

そして兄の期待に応えるように、主役に抜擢された弟は生き延びるために颯爽と路地を走り回る姿などから、貧しいながらもなんとか生計を立て住民を救い、両親を探すのに奔走するいつも一生懸命な孤児を見事に演じきった。

子役の醸し出す雰囲気で作品のクオリティが高まるといえば、日本の作品の『誰も知らない』を思い出した。この作品で柳楽優弥が脚光を浴びたように、本作のチャン・アン・コアも今後スター俳優に化けるポテンシャルを感じさせる。


映画『走れロム』

トラン・タン・フイ 監督 チャン・アン・コア 主演

第24回釜山国際映画祭ニューカレンツ部門で最優秀作品賞を受賞し、国際的にも高い評価を獲得。この受賞によりアジア圏での注目度が高まり、日本を含む各国で上映された。

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久米佑天

東京大学文学部卒業後、大手学習教材制作会社にて英語教材の校正・翻訳に携わる。現在は株式会社Aプラス専属校正・翻訳者としてさまざまなジャンルの文書と向き合う。これまでの訳書に『心理学超全史〈上・下〉―年代でたどる心理学のすべて』と『アンヌンに思いを馳せて:ウィリアム・ジョーンズの臨死体験に基づく物語』がある。

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