世界が終わるより先に初めての恋がはじまった、まぶしい夏の日。
ノストラダムスの大予言、たまごっち、ラジカセ——。1999年、世紀末のタイを舞台に、双子の少女「ユーとミー」の恋と秘密が交差する。
ずいぶん昔、毎週のように行っていた焼き肉屋の店主を「お兄ちゃん」と呼んでいた。ある日、会計の時にそっけなかったので、あれ?と思ったら、その人はなんとお兄ちゃんの双子の弟でものすごくびっくりしたことがあった。私には全く見分けがつかなかったのだ。
この作品は、一卵性双生児の少女、ユーとミーが主人公の物語。おかっぱ頭がキュートな中学生で、タイの首都バンコクで家族4人暮らし。ノストラダムスの予言や、コンピュータの2000年問題が騒がれた1999年が舞台の、甘酸っぱい青春ドラマだ。
ユーとミー、ホクロひとつ分の違い
2人の外見上の違いは、ミーのほっぺに小さなほくろがあることだけ。冒頭は、それをうまく利用して焼き肉屋や映画館を1人分の料金で楽しむ姿が描かれる。2人の大胆さに驚くけれど、そうやって周囲の反応を試しているのがわかる。

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そんなある日、ユーの代わりにミーが数学の追試を受けることに。廊下ではイケメンのハーフの男の子が、ギターでタイの伝統音楽を奏でている。鉛筆を忘れて困っていたミーに、その子は自分の鉛筆をポキンと貸してくれた。わ、こういう出会いって、なんだかずるい!
早々とテストを終えたミーが、斜め後ろに座っている彼に回答を見せてあげたのはお礼のつもりだったのか、恋の予感だったのか。
いつも一緒でとにかく仲良しのユーとミーだが、学校から帰ると両親は大ゲンカ。父親を追って借金取りも家にやってくる始末。夏休みはおばあちゃんの家に3人で行きましょうと母親は告げる。本当は、英語のキャンプに行きたかったんだけど、ね。
ハンカチ落とし?8秒見つめる?恋の作戦会議スタート!
水色のバンでおばあちゃんの家がある街へ。物置きでタイの弦楽器「ピン」を見つけ、ユーは習いに行くことにする。一方ミーは、おばあちゃんの店で店番をすることに決める。それは、この時点ではただの何気ない選択に見えた。
ピンの教室があるのはのどかな農村地帯。南国の趣の建物の側で、首に長い紐をつけた水牛がのんびり草を食んでいる。そこにバイクでやってきたのは、あのハーフの子!マークと呼ばれていて、先生の助手をしている。両親が離婚し、母親とこの街にやってきたのだという。マークはユーとの再会を喜ぶ。ユーは、彼を覚えているふりをする。うん、それしかないよね。

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「彼氏はいるの?」とマークに聞かれたことをミーに話すユー。ミーは少し複雑な顔をするけれど、彼のことが気になるとユーに打ち明けられると、「自分から行動を起こして好きにならせないと!」とあれこれ作戦を練りはじめるのだ。ミー、それでいいの?
河原でノストラダムスの大予言を読みながら、世界の終わりに備えておばあちゃんのツケで爆買いする2人に笑った。パパはY2K対策カードを売る新しいビジネスを始めるらしい。えっ、それって大丈夫なの? そんな風に世紀末のカウントダウンが近づくなか、ミーが言い出す。
「彼は私たちを見分けられる?」「私がユーのふりをしたら?」。
「もう仲良しだもの、見分けられるはず」とユー。
大きな蓮池でのデート、ユーを装ってマークとボートに乗っているのはミー。
マークは気づくのか?2人の恋のゆくえは?世界の終わりは来るのか?パパとママは仲直りできるの?

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「あの頃」を思い出す世紀末的三角関係
原題は“You& Me and me”。最後の “me”はマークのことらしい。この作品の面白さは青春&成長ストーリーに、双子と世紀末という、ちょっと特殊で異質な要素が加わることで、独特の世界観を生み出していることにある。
双子の関係性は特別なものであるけれど、思春期の甘酸っぱい感情や、2000年問題に、ノストラダムスの大予言、当時流行ったものなどが登場し、国は違えど、いつの間にか自分自身の「あの頃」と重ねていることに気づく。
たまごっち、ラジカセ、中学生でバイクデビュー
懐かしいアイテムの筆頭は、たまごっち。ミーがユーの代わりに追試を受けている時、ユーが校庭でたまごっちをしながら待っていた。タイでは近年、再びブームになっているという。
2人が音楽に合わせて歌って踊る赤いラジカセはNational(現在のパナソニック)RX-FM15。流れてくる音楽も懐メロ風。李香蘭(山口淑子)が歌った名曲『夜来香』をポップにアレンジした『ハンカチーフ』は、恋の作戦会議のテーマ曲。2人が歌って踊る姿がかわいかった。

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マークが乗っているバイクは、Honda Nova Super RS。90年代にタイのホンダで生産されていたスポーツタイプモデルだ。中学生がバイクに乗ってもいいの?!とびっくりするが、タイの田舎では一般的だったのだろうか。
住みたくなる街、ナコーンパノム
おばあちゃんの家があるのは、タイ東北部に位置し、メコン川に面するナコーンパノムという街だ。川べりに建つ、街のシンボルの時計塔は、ベトナム戦争中にタイに避難したベトナム人住民が建てたものらしい。
緑が鮮やかな農村地帯、マークとミーがデートする赤い蓮の池など、美しい風景が連なる。ナコーンパノムのロケ地を巡るこんな動画も公開されているので興味がある人はぜひ観てほしい。
屋上からメコン川を一望できるおばあちゃんの店や住まいは、カラフル&キッチュなたたずまい。さまざまな形の籐製品や飾り物がたくさんぶら下がった店先、ブルーのタイルのバスルーム、ユーとミーが眠る寝室の蚊帳の下に敷かれた布団のレトロ柄などなど、こんなところで暮らしたい!とアジア雑貨ファンは叫んでしまいそうだ。

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タイのおやつは甘くなくていい
アジア料理好きは、おばあちゃんの家のキッチンにも注目するだろう。
バンコクから到着したばかりのユーとミーを、バナナの葉で巻かれた豚肉ソーセージ「ムーヨー」でもてなす後ろには、金属製の鍋の上に竹の蒸籠が置かれている様子が映っている。この地域ではもち米を蒸すのに使うものらしい。他にも、なにやら楽しげな調理器具がたくさん並んだ様子はまるで秘密基地だ。
おやつといえば、ピン教室の帰り、バス停隣の屋台でマークがユーに買ってくれた発酵豚肉ソーセージ「ネーム」らしき食べ物もおいしそうだった。おやつ=甘い物でないのが面白い。
塩卵入りのタイの肉まん「サラパオ」はユーとミーの好物のようで、2人で割って半分こする姿が微笑ましかった。

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双子姉妹の監督が撮った、双子姉妹の物語
実は、この映画の監督、ワンウェーウ・ホンウィワットとウェーウワン・ホンウィワットも実は一卵性双生児である。タイではまだ珍しい女性監督で、英国のクリエイティブアーツ大学で学び、帰国後はドラマなどで活躍、本作で長編映画デビューした。1985年生まれなので、1999年当時はユーとミーと同じ年頃でもあり、監督の経験を元にしたエピソードもあったという。
女性監督らしい視点で初潮を丁寧に描いたり、登場人物の心にグッと踏み込んだリアリティが、この映画を単なる青春&成長ストーリーに終わらせていないと感じた。それから、大きな意味で「入れ替わり」が、思いがけないシーンでもキーワードになることは、双子の監督ならではといえるかもしれない。
プロデューサーは、2021年に公開されたタイ・韓国合作のホラー映画『女神の継承』の監督で知られるバンジョン・ピサンタナクーン。
ユーとミーを一人二役で演じたのは、この作品でデビューしたティティヤー・ジラポーンシン。ピサンタナクーンが知人のインスタで偶然目にした写真から大抜擢したという。マーク役を演じたアントニー・ブィサレーは、実際にベルギー人の父とタイ人の母を持つ。彼の主演映画『親友かよ』は2025年に日本でも公開された。
一つだけよくわからなかったのが、タイトルにもある夏休みの時期だ。タイの学校の夏休みは3〜5月のようだが、物語の流れから逆算すると、おばあちゃんの家に来たのは9月か10月だろうか?
細かい部分はいいとして、これまで双子が主人公の映画といえば、個人的には1966年にチェコで製作された『ひなぎく』が大のお気に入りだった。永遠の双子アイドル、マリエ1とマリエ2に続き、ユーとミーの子犬のような眼差しもずっと心に残るに違いないと思う。
Amazon Prime Videoでの視聴はこちらから
ワンウェーウ・ホンウィワット&ウェーウワン・ホンウィワット 監督 ティティヤー・ジラポーンシン 主演
2023年2月タイ国内公開。初週興収3000万バーツを超える大ヒットとなり、大阪アジアン映画祭、イタリアのウーディネ・ファーイースト映画祭など国際映画祭でも上映。日本では2024年6月28日より全国ロードショー公開された。
◎公式ホームページ
https://www.reallylikefilms.com/futago
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