映画・ドラマ

映画レビュー「返校 言葉が消えた日」

大ヒットゲーム『返校』を原作とする社会派ホラー

自由について考えさせられ、独特な世界観に惹きこまれる

舞台は1962年の台湾、翠華高校。当時、台湾は中国国民党の独裁政権によって厳しい思想統制が課され、自由な言論や読書は禁じられていた。

女子生徒ファン・レイシンは、ある日学校から人の気配が消えていることに気づき、校内をさまよい歩く中で、密かに彼女に好意を寄せていた男子生徒ウェイ・ジョンティンと出会う。

ウェイは、こっそりと禁断の読書会に参加していたが、何者かに密告されたことで仲間たちは逮捕され、拷問や処刑を受けることになってしまった。

その後ファンとウェイはまるで悪夢のような幻想世界に取り残されることになり、幽霊や幻影に追われながら、あの迫害事件の真相と密告者の衝撃の過去が明かされていく。

本当の意味での自由とは?

本作の中心テーマのひとつは間違いなく「自由」だ。果たして私たち日本人は本当に自由に生活しているのだろうか。確かに政府による思想統制などはないが、至る所に制約はある。

例えば、私が通っていた高校は非常に校則が厳しかった。制服着用が義務だったのは当然としても、その他にも髪の長さ、ズボンの裾の長さ、携帯電話禁止など。当時は勉強以外することがなかったため、特にその厳しさに不満に思うことはなかった。

だが大学に入ってみると、自由な校風で教育を受けてきた同級生の方が色々と自立していることが分かった。そもそも勉強とはやらされる詰め込み教育ではなく、自主的・主体的に行うものである点を考えると納得がいく。

自由であることのデメリットもなくはないが、やはり制約が多い方が成長の支障になると考える。本作の舞台設定とまではいかないが、制約が多い中で育った私は大人になるのが出遅れた感は否めない。

自由を重んじるアメリカなどは多様性を受け入れる地盤が日本よりも確立されている気がする。だからこそ「差別」に対して厳しい制裁が課されるのだ。日本も障害者やLGBTといったマイノリティの人たちと本当の意味で共存できるような包容力を持った社会を目指すべきだと思った。

異質(?)なホラー映画

正直に打ち明けよう、私はホラー映画が苦手である。だが数少ないホラー映画の視聴経験から見ても、本作は今まで見てきたホラー映画とはテイストが違う気がした。

まず悪魔や怪物などの「見える恐怖」ではなく、独裁政権下の抑圧と密告社会が作り出す「見えない恐怖」を映像化している点が特徴的だった。

そして少し調べてみると、1947年の「二・二八事件」を契機に中国国民党政権によって台湾全土に戒厳令が敷かれ、1949年から1987年にかけて世界で最も長い戒厳令下で、言論統制・出版物の検閲・市民の逮捕や投獄・処刑が横行したそうである。

この時代は「白色テロ」と呼ばれ、国民の思想や表現の自由が奪われ、互いに監視・密告を課される社会が形成されたという。

本作での描かれ方としては、主人公はある日目覚めると無人の校舎に取り残されており、静まりかえった恐怖が平凡だった日常を覆いつくす。また禁じられた本を読むだけで処刑に処される恐怖感と常に隣り合わせなのも実に怖い。

その際のファン・レイシン役を演じたワン・ジンは何とも言えない恐怖感と、密告者としての罪悪感を見事に演じてみせた。

そして無人の校舎では幻覚が入り混じり、拷問や処刑の記憶がたびたびフラッシュバックする。ウェイ・ジョンティン役を演じたツォン・ジンファは拷問を受ける羽目になるが、苦悩やトラウマを抱えながらも希望を見出そうとする懸命な姿が印象的だった。

このように独裁政権を恐怖の象徴として、その下で自由を奪われた国民の苦悩と葛藤を「ホラー」として描いている。ある意味、悪魔や怪物よりも怖い気がした。

そして単なるホラー映画という娯楽ではなく、台湾社会が実際に経験した歴史的トラウマを記憶し、後世に語り継ぐための媒体ともいえる作品である。


映画『返校 言葉が消えた日』

徐漢強 監督

ワン・ジン、ツォン・ジンファ 主演

観客動員数が公開24日間で100万人を突破する大ヒットとなり、同年の金馬奨では最多12部門にノミネートされ5部門で受賞した。

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久米佑天

東京大学文学部卒業後、大手学習教材制作会社にて英語教材の校正・翻訳に携わる。現在は株式会社Aプラス専属校正・翻訳者としてさまざまなジャンルの文書と向き合う。これまでの訳書に『心理学超全史〈上・下〉―年代でたどる心理学のすべて』と『アンヌンに思いを馳せて:ウィリアム・ジョーンズの臨死体験に基づく物語』がある。

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