書籍

書籍レビュー「ナビエ・ストークス方程式と僕らの最終定理」

コ・ジョンウク 著 岡崎 暢子 訳 東京ニュース通信社 刊

数学の力で宝探し! 詰んだ日常から脱出なるか?

数学が日常生活とつながっていること、夢を持ってあきらめないことの大切さを教えてくれる、子供も大人も楽しめる軽いタッチの青春小説

クォン・ジュンピョは中学2年生。ソウルに住んでいたが、父親がリストラされて、父親の故郷の緑山市へ引っ越して数学塾を開くことになった。

緑山市で、大雨によるがけ崩れで流された緑山寺の本尊である金銅仏像を見つけた者に高額の懸賞金が出ることを知る。数学オタクのパン・ジョンシクが数式を使って埋まっている場所を特定すると言い出し、ムードメーカー的存在の女子、カン・セインも手伝って3人で仏像探しを始める。 塾もうまくいっておらず父母が仲たがいしているジュンピョは、懸賞金が手に入ればすべてが解決すると望みをかけるが……。

好きなことを追求する情熱の力

ジョンシクは数学が好きでいつも数学の問題を解いている。夢はミレニアム問題という世界中の天才数学者でも解けない超難問を解くことだという。数学の力を信じ数学を愛するジョンシクは、仏像探しを始めても失敗の連続だったが、あきらめようとはしなかった。大きな岩や土の粘度など新しい要素に気がついて何度も計算しなおす。好きなものを追求する力は何よりも強いと感じさせられる。ジョンシク自身の次のような言葉がある。

「ナビエ・ストークス方程式と僕らの最終定理」本文より引用)

また、著者自身が数学を愛し数学の力を信じているようだ。数学は文明の進化と社会に役立つものだと伝えようとしている。

「ナビエ・ストークス方程式と僕らの最終定理」作者のことばより引用)

こんなふうに言われると、読者も数学はすばらしいものなのだと思えてくる。この本を読むと、数学は意外とおもしろくて身近なものなのだとわかってくる。

本書には学校の先生が夢を持つことの大切さを説く場面もある。好きなことにだったら強い意志を持って情熱を傾けられる。数学である必要はない。好きなことをあきらめずに努力を続けていれば、なんらかの結果は出せるだろう。願っていた夢そのものがかなわなくとも、必ず得るものはあるはず。何かを好きになって情熱を傾けること、夢を持つことのすばらしさを教えてくれる作品だ。

それぞれ異なる個性を持った3人が友情で結ばれる様子がすがすがしい

家庭で直面している現実の厳しさに力がぬけたようになっているジュンピョと数学オタクのジョンシクと明るくて調子のいいセインが、ジュンピョの父親の塾の事務室を自由に使えたこともあって仲良くなる。『ハリー・ポッター』の3人組のようでもあり、個性豊かな3人のやりとりが楽しい。

家出したジュンピョが学校を退学にならないようジョンシクが手をまわしていてくれたのも感動的だ。ジュンピョの家が経済的に困窮し、父母の仲が悪くなって落ち込んでいると、ジョンシクは自分の家はもっとひどいことになったのだと話す。それでも数学の力を信じて黙々と努力する姿はすばらしい。数学が心の支えになっているのだ。セインはマイペースで明るくて、彼女の存在のおかげで話のトーンが暗くならずにすんでいる。

作品に明るいトーンを加えるイラスト

漫画家、町田メロメの明るい挿絵が内容にとてもよくあっている。表紙のイラストだけで3人の個性や物語の一端を想像できる。また、ナビエ・ストークス方程式とか最終定理とかいう言葉を聞くと難しそうで堅苦しく感じるが、このイラストのおかげで気軽に読める本だと感じさせてくれる。


著者紹介

コ・ジョンウク

韓国を代表する児童文学作家。1歳の頃、小児麻痺の後遺症で歩行不自由となる。『文化日報』の新春藝に応募した短編小説が入選し、作家デビュー。以来、障がいをテーマとした童話を多数発表して新たなジャンルを切り拓く。発表作品は数百にのぼり、累計部数は500万部を超える。現在は車椅子を利用して執筆や講演活動にいそしむ。邦訳が出版されている他の著書に『韓国トップスターウンギョンの夢―任恩敬ドキュメンタリー童話 [夢をかなえる青少年美談シリーズ 01]』『ピアノの天使 韓国天才奏者 イ・スミの物語 [夢をかなえる青少年美談シリーズ 02]』『やさしいことば、ゆうきがでることば』『ぼくのすてきなお兄ちゃん』などがある。2025年、アストリッド・リンドグレーン記念文学賞(ALMA)にノミネートを果たす。

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飯野眞由美

立教大学文学部卒。洋書卸売会社勤務を経て、カルチャーセンターや予備校で英語を教えはじめる。英語講師・翻訳家。「スパイダーウィック家の謎」シリーズをはじめ20冊ほど翻訳書がある。

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