韓国で実際に起きた事件をもとにした、児童虐待の問題を扱った意欲作

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2013年8月に継母が義理の娘を殺害した事件。娘は凄惨な虐待の末に亡くなり、さらに、同じく虐待を受けていたその姉も、妹を殺したという虚偽の陳述を強要された。そして2019年にこの事件をもとにした映画『幼い依頼人』が韓国で公開される。
弁護士ジョンヨプはなかなか就職が決まらず、姉の勧めで仕方なく児童福祉館で働き始める。そこで、虐待を警察に訴えた少女ダビンとその弟のミンジュンと出会う。警察は問題を児童福祉館に引き継ぐだけで、助けてはくれない。学校の先生も同じアパートの住人も、虐待に気づいていながら知らぬふりをしていた。
ジョンヨプも法律事務所に就職が決まり、ふたりから離れていた。そんなある日、ダビンが暴力をふるって弟を殺したという連絡を受ける。ダビンにそんなことができるはずない。ふたりを見捨てたことを悔い、ダビンの無罪を証明しようと奔走するが、ジョンヨプに見捨てられたと考えるダビンは心を閉ざし、真実を語ろうとしない。無実であることの証拠を見つけられるのか?
子どもを自分の所有物と信じる親による、しつけと称した虐待

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この物語では「継母」による虐待だが、実父母による虐待も多い。自分の子どもに何をしようと自由だという誤った思いこみや、「いい子」に育てなければと追いつめられることが原因でもある。本作でも父親が「自分の子を殺そうと勝手だろ!」とさけんでいるし、継母も悪い事を教えようとしただけだと言う。
この継母が虐待を始めるとき、必ず黒ゴムで髪をひとつに結ぶ。虐待の場面は省略されているのに、「虐待が始まる」という子どもたちの緊迫感がただよう。仕事でも始めるときのように、ゆっくりと準備をして向き合う。暴力シーンなしで伝えるこの場面が不気味さや異様さを表現している。
主人公のジョンヨプは決して正義感に燃えた熱い人物ではなく、平穏無事に暮らせることを願うような人間だ。就職のための面接で、殺人を目撃して助けを求められたが助けなかった人たちは有罪か無罪か問われ、犯人を止めようとしても逆に自分が殺される可能性があるから、何もしなくても無罪だと彼だけが答える。この冒頭の部分が彼の性格をよく表している。面倒には巻き込まれたくないと考える人物だったのだが、務めていた法律事務所を辞めてまでダビンを助けることを決意する。
ジョンヨプがふたりにハンバーガーを食べろと渡した金を、継母が自分の財布から盗んだのだと思いこみ、悪い事だと教えるため〈しつけ〉と称しての暴行があったことを知ったからだ。ジョンヨプは悲しみ深く悔いる。母親がミンジュンを殺した真犯人だと信じて告訴し、ダビンの代理人となるが、「大人は私がどうなっても気にしない。本当のことを言ったら殺される」とダビンは固く口を閉ざす。
虐待を防ぐことの難しさ
ダビンたちとジョンヨプとの最初の出会いは警察署だった。ダビンが継母の虐待を警察に訴えたのだ。だが、警察から児童福祉館へまわされ、継母に話を聞くと、「ちょっと叱っただけなのに。うそをついちゃだめじゃない」と言う。現場を見ていないなら、証拠がないなら、何もできない。家の中という閉鎖的な場所での実態をつきとめることの難しさを感じる。
母親というのをどういうものだと思っているのかとジョンヨプが責めると、継母は「母親なんていないんだから、わかるわけないだろ!」とどなりかえす。その言葉でスッと得心がいった。母親を知らないながらも、母親として食べさせ、服を買って、学校に行かせ、悪い事を教えるためになぐっただけだと本人は主張する。自分なりに精一杯やってきたということだ。虐待の連鎖というのがある。子育てをする母親の気持ちに沿った支援が必要だろう。
希望や安らぎを象徴する小道具
この作品では白い紙飛行機が希望の象徴として使われている。初めのほうで、「紙飛行機をたくさん飛ばしたから願いがかなったね」とミンジュンが言う。紙飛行機を飛ばすことで願いがかなうと信じている。最後の場面でも白い紙飛行機が飛んでいく。きっとミンジュンはこの紙飛行機に乗ってママのもとに行ったのだ。
また、ジョンヨプがふたりに与えたゴリラのぬいぐるみが、子どもたちふたりの心の安らぎ、支えとなった。そのゴリラが裁判でもダビンを救う存在となる。全体的に暗い雰囲気の中で、このふたつがふたりの心の救いとなっていた。
実力派の俳優陣

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最後に、俳優陣と監督についても簡単に触れておきたい。
弁護士役のイ・ドンフィはソウル芸術大学演劇科卒業で、数々の映画やテレビドラマに出演している。名脇役として有名だが、イケメンすぎずやり手でもない素朴さが本作品でよく活きている。
ダビンを演じたチェ・ミョンビンは2016年デビュー、ミンジュンを演じたイ・ジュウォンは2017年デビュー。いずれも幼いながらすでに出演作多数の経験豊富な子役だ。このふたりのかわいさと演技力に心を奪われる。
だが、なんといっても悪役の継母役を務めたユソンがこの作品の成功の鍵となっている。その不気味さ恐ろしさはなんともリアルで、身震いさせられる。
チャン・ギュソン監督の作品にはほかに『パラム パラム パラム』(2023)、『私は王である!』(2011)、『ラブリー・ライバル』(2004)などがある。
映画『幼い依頼人』
チャン・ギュソン監督 イ・ドンフィ
ユソン、チェ・ミョンビン、イ・ジュウォン主演
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『幼い依頼人』
DVD発売中
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
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