書籍

書籍レビュー「カンボジア 花のゆくえ」

パル・ヴァンナリーレアク 著 岡田 知子 訳 段々社 刊

歴史、恋愛、女性の成長物語――さまざまな読み方ができる作品

本作は、恋愛小説の要素も含まれた主人公の女性の成長物語でありながら、親米ロン・ノル政権、残虐なポル・ポト政権、ポル・ポト政権破壊後という3つの時代を体験した女性の目から見たカンボジアの歴史を描いたものでもある。さらに、カンボジア人の人柄や文化が読みとれる作品でもある。

わがまま一杯に暮らしていた資産家の娘ミアルダイ。父ソコンは亡き友人の息子であり命の恩人でもあるボライを家に引き取って学校へ通わせ、息子のように思っていたが、ミアルダイはボライを使用人のように扱っていた。

1975年4月17日、ポル・ポト率いる共産主義武装勢力が首都プノンペンを制圧すると、すべての市民を市外へ退去させ、強制労働や虐殺が始まった。ミアルダイも病気と厳しい労働で死にかける。そして、父親を殺されてしまう。

そうした体験を経て、ミアルダイも変わっていく……。

家族離散、強制労働、拷問……ポル・ポト政権の残虐さの実態がよくわかる

ポル・ポト政権という言葉を知ってはいても、これほど非人間的とは思っていなかった。家族は切り離され、集団結婚させられ、米粒がわずかな食事で、来る日も来る日もひたすらきつい労働をさせられる。そして、オンカーと呼ばれる絶大な権限を持つ指導者たちは、難癖をつけては拷問し、平気で次々と人を殺していく。

「カンボジア 花のゆくえ」本文より引用)

この時期に権力を握っていたのは、ほとんど教育を受けていない地方出身の若年武力組織員オンカーだったそうだ。ミアルダイもオンカーが教育を受けていない貧困層であることに気がつく。それまで見下していた貧困層に支配されて虐待を受けるとは皮肉なことだ。オンカーたちは知識がないため何も考えず、時代の流れに沿ってこのような行動に出たのか、あるいは、それまで自分たちが見下されていたことへの報復なのか。いずれにしても、同族への虐殺があまりにも多く行われた愚かな時代だったと思う。

主人公の成長と強い意志

資産家の娘で、貧乏人をばかにしていたわがまま娘が、ポル・ポト政権下でつらい労働に耐え、父親を亡くし、自分がいかにひどい人間だったかを自覚する。ポル・ポト政権後は、ボライの母親を助ける思いやりのある強い女性に変わっていた。そして、国家の将来のために医療技師になる決意をする。試験に合格し、5年間ベトナムで奨学金を受けて学ぶことが決まる。恋人と離れて暮らすことになるが、決意はゆるがなかった。カンボジアの女性は受け身で男性の言う通りに生きるのかと思っていたので、恋人を置いていくことになろうと、自分の決めた道を進もうとする強い意志と自立心にあふれた次の台詞に心を打たれた。

「カンボジア 花のゆくえ」本文より引用)

本作から読みとれるカンボジア人の人柄と文化

カンボジア人はシャイで誠実で忠実だ。恋人同士でも頬にキスをするのが精一杯のようだ。不良がミアルダイに暗がりで迫ってきたときも、頬にキスをしようとしただけだった。また、ボライもミアルダイも何年でもひとりの相手に忠実であろうとしている。不良っぽいパネートというミアルダイの従兄もミアルダイを何年も忘れなかった。

ソコンは友人の息子であり、殺されて金を盗まれそうになったところを救ってくれたボライをとても大切に扱っている。決して恩を忘れないし、友人や家族をとても大切にする。人情を重んじるカンボジア人の生き方をすばらしいと思った。

伝統的作法に従った結婚の申し込みは、男性側の両親あるいはその代理人が女性側の両親あるいは代理人に申し入れるということだ。パネートがミアルダイに求婚を申しこんだとき、ソコンはボライに相談しているが、ミアルダイには何もきいていない。古風なしきたりだが興味深く、これがカンボジアの伝統なのだなと理解した。

このように、カンボジア人の人柄や文化をかいま見ることもできる作品だ。


著者紹介

パル・ヴァンナリーレアク

1954年、カンボジアのコンポン・チナン州生まれ。ポル・ポト政権下(1975~79年)で両親を亡くし、集団強制結婚させられる。同政権崩壊後、区役所に勤務しながら小説を書き始める。88年発表の『カンボジア 花のゆくえ』が文学コンクールで第1位入賞、デビュー作となる。95年、長編『忘れ得ず』でシハヌーク国王文学賞受賞。現在、シナリオ・ライター、作詞家としても活躍。女性や青少年の社会問題を扱うNGOに協力し、啓発ビデオ制作にも力を入れている。

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