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映画レビュー「活きる」

3つの激動の時代を生き抜いた家族の物語

ユイ・ホア著の同名の小説を巨匠チャン・イーモウが映像化。近現代の中国を語るのに欠かせない3つの激動の時代において、一致団結して乗り切った家族の姿を描いた感動作。主演二人の迫真の演技も光る。

1940年代、主人公のフークイは賭け事で一文無しになり、家族に愛想をつかされ疎遠になる。この時期は中国の国共内戦期で、フークイも徴兵される。1950年代、フークイは戦争から帰還し、家族と再会。当時、大躍進政策が進められ、フークイ一家は経済的困窮に陥る。1970年代、文化大革命が起き、またしてもフークイの家族に試練が訪れる。このような時代の波に吞まれないように懸命に生きた家族の姿を通して、家族や愛の本質に迫る。

近現代の中国を特徴づける3つの時代背景

今や誰もが知る大国、中国。私も約20年程前に中国に旅行したことがあり、街の風景からは独特の風情が感じられ、万里の長城を登った際には何千年の歴史の重みに圧倒されたことを覚えている。

だがその歴史をどれほど知っていただろうか?

高校の時に中国史を世界史で習ったことはあるが、その知識は教科書どまりのものだった。やはり映像化されると、これまで漠然と頭にあったイメージがより具体化されるように感じた。本作品では、3つの時代背景の特徴が要点を絞ってよく描かれており、主人公一家を通して、一般庶民が当時どのような生活を送っていたのかが大変分かりやすく表現されている。個人的には1960年代の文化大革命時に、迫害を受けながらも絆を失わなかったフークイ一家の家族愛に心打たれた。

共感しやすいテーマ

私は多少知識を持ったうえで鑑賞したが、背景知識がない人でも十分楽しめる作品なのではないかと思った。それはやはり誰もが共感しやすい家族愛をテーマの中心に据えているからだろう。それぞれの時代でフークイ一家が直面する困難は異なるが、どんな局面に陥っても家族は離散せず、愛を忘れなかった。経済的困窮に陥っても、知り合いが迫害を受けても、家族の誰かを失っても。

多くの人にとって、家族はかけがえのない存在だろう。社会的変革期において家族の絆はどのように変化していくのか。フークイ一家は社会が混乱に陥れば陥るほど、絆を強め一致団結してその危機を乗り越えようとする。その姿に深く共感する人もいることだろう。

また本作では日本と中国の家族愛の違いも少なからず感じられた。中国の愛情表現の方がより直接的で情が深い気がした。簡単な言葉で愛を直接伝える姿には日本人も学ぶべき面があるのではないか。

時代によって違う顔を見せる俳優陣の演技

主演のグォ・ヨウ(葛優)は中国では三枚目俳優としてスキンヘッドの頭がトレードマーク。3つの時代の特徴に合わせた役を演じ分け、どこか滑稽でチャーミングな要素を漂わせるのはそれまで積み上げてきたキャリアを物語る。日本で少々知名度のある作品としては、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・上海』で主演を務めている。

同じく主演のコン・リー(鞏俐)は数々の国際的な賞を受賞し、ハリウッドにも進出している中国を代表する女優。本作では激動の時代のどんな場面でも夫と家族を支え続ける妻として、時に芯が強く、時に優しい女性を巧みに演じている。代表作としては、『赤いコーリャン』、『紅夢』 、『秋菊の物語』の他に、ハリウッド映画で、主人公が第二次世界大戦前後の京都を舞台に人気芸者へと成りあがっていく姿を描いた『SAYURI』などがある。

また現代中国を代表する世界的な監督のチャン・イーモウらしさが随所に光る。他の作品でも中国の歴史や文化を克明に描くことが多いが、本作品でも大躍進政策や文化大革命を包み隠さず分かりやすく描いている。個人的には同氏が総指揮を務めた2022年の北京オリンピック、パラリンピックの開会式と閉会式の印象が強く、中国という大国の壮大さを世界に発信し続けている中国映画界のまさに巨匠といえる。


映画『活きる』

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チャン・イーモウ監督

グォ・ヨウ、コン・リー主演

ユイ・ホアの小説『活きる』(原題:活着)が原作。第47回カンヌ国際映画祭で、審査員特別賞および主演男優賞(グォ・ヨウ)を受賞。1994年、BAFTA賞非英語部門最優秀映画賞を受賞。

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久米佑天

東京大学文学部卒業後、大手学習教材制作会社にて英語教材の校正・翻訳に携わる。現在は株式会社Aプラス専属校正・翻訳者としてさまざまなジャンルの文書と向き合う。これまでの訳書に『心理学超全史〈上・下〉―年代でたどる心理学のすべて』と『アンヌンに思いを馳せて:ウィリアム・ジョーンズの臨死体験に基づく物語』がある。

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