コーヒーはお好き? 父の愛とトゥブルック・コーヒー
ジャカルタのカフェを舞台に、「完璧なコーヒー」を追い求める若者たちの友情と親子の愛情を描いた映画は、本国インドネシアでも大ヒットを記録した。
ジャカルタでカフェを営むベンとジョディ。ほぼコーヒーのことしか頭になく、客に嬉々としてコーヒーのうんちくを語るベンのかたわらで、ジョディはどうすれば売り上げをもっと伸ばせるか、父の残した借金をどうやって返済していくかでいつも頭を悩ませている。そんな二人は対立することもしばしば。
ある日、とあるビジネスマンが「国で一番うまいブレンドを作ったら、1億ルピア払おう」と持ちかける。二人はこの挑戦を受けることにするが……。
コーヒーを通して語られるインドネシアの今と昔
インドネシアの人気女流作家、ディー・レスタリの短編を原作としたこの作品。キャラクター設定や話の筋は、原作とはかなり異なっている。原作を「正」とすると、ひっかかりを感じる人もいるかもしれないが、これはこれで良い映画だ。
サブタイトルに入っている「恋」にはそれほど重点は置かれていないが、父と子の愛情が丁寧に描かれている。
高価なコーヒー豆を使って、完璧なブレンドができたと喜んだのもつかの間、コーヒー鑑定士のエルに「まあまあ」と評され、納得のいかないベン。肩透かしどころの話ではない。これをきっかけに、物語はちょっとしたロードムービーの様相を呈する。
鳥の声、虫の声がこだまする、緑豊かなコーヒー農園。出迎えたのは農園主のセノさん夫妻。慈愛に満ちた彼らの案内を受けながら、ベンは幼い日の記憶をよみがえらせる。そこには、グローバリズムの犠牲になったインドネシアの人々の痛みも映し出されている。
挽いたコーヒー豆を直接グラスに入れ、熱湯を注ぐ。インドネシア独特のトゥブルック・コーヒーだ。父の愛情とは、この珈琲のように素朴でいながら、滋味深いものなのだろう。
おしゃれなカフェでいただく洗練されたコーヒーもそそられるが、農園を背景に、木のテーブルにコツンと置かれるコップに入った素朴なコーヒーは、スクリーンからその香りが漂ってくるようだ。
インドネシアを代表する俳優陣
ここで少し、主演俳優たちについて紹介しておこう。
どこか飄々としたところがあるコーヒーを愛する自由人、ベンを演じたチコ・ジェリコ。彼の出演作品は、世界的な映画データベースIMDbでも軒並み高いレーティングを獲得し、2014年に主演した『Cahaya dari timur: Beta Maluku』ではASEAN国際映画祭で主演男優賞を受賞している。プロデューサーとしての顔も持ち、この『珈琲哲學~恋と人生の味わい方~』でも共同プロデューサーの一人として名を連ねている。
堅実な実業家であり、友達思いなメガネ男子、ジョディを演じたリオ・デワントは、数多くの映画、テレビドラマに出演しているインドネシアを代表する俳優の一人。コメディ映画『Arisan!2』(2011年)では、俳優としての出演(インドネシア映画祭で助演男優賞を受賞!)のかたわら、主題歌『Cinta Terlarang(禁じられた愛)』も歌っている。
一目惚れ必須の美貌と知性を兼ね備えたコーヒー鑑定士、エルを演じたジュリー・エステルは、2010年にインドネシアで放映されたメロドラマ『Amanah dalam Cinta』のヒロインとして人気を博した。映画出演作には『Kuntilanak』(2006年)、『Macabre』(2009年)、『The Night Comes for Us』といったホラー作品があり、インドネシアで「絶叫クイーン」の称号を得ている。
この三人は、プラハを舞台にした実話から着想を得たラブストーリー『Surat dari Praha』(英題:『Letters from Prague』)(2016年)でも共演を果たしている。 ジャカルタには実際にチコとリオがオーナーを務めるカフェ「珈琲哲学」があるという。インドネシアを訪れた際には、ぜひ足を運んでみてほしい。
珈琲哲學~恋と人生の味わい方
アンガ・ドゥイマス・サソンコ 監督
リオ・デワント、チコ・ジェリコ、ジュリー・エステル 主演
2015年 インドネシア 第29回東京国際映画祭出品作品
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