ナ・テジュ 著 黒河星子 訳 かんき出版 刊
さまざまな詩を通じて、人類の永遠のテーマ「愛」について問う
さまざまな詩を通して、愛とは何かという本質的な問題について考えさせられる。そして愛に支えられて現代社会は成り立っていることも改めて気づかされる。
韓国で長年教師を勤めてきた著者がブログやツイッターなどネットで取り上げ反響を呼んだ詩を厳選した詩集。
分かりやすく感情に直接的に訴えかける言葉で彩られたそれぞれの詩が生き生きと躍動し、独特な世界観の挿絵が良いアクセントになっている。詩のテーマは愛、絆、人生といった普遍性がありながらも深い内容で幅広い世代に支持されるのも肯ける。悲しみや寂しさに押しつぶされそうになった時、優しい言葉で溢れた本書は救いの手を差し伸べてくれるのではないか。
愛のある人生とは?
愛と人生は切っても切れない関係にあり、人間誰しも愛とは何か考え、悩み、答えを出そうとする。この詩集は愛という人生のテーマについて考察している。例えば、次の詩を取り上げてみる。
馴染んでしまった愛は、もう
愛ではない
…(中略)…
今日もきみは ぼくの前で
もう一度生まれて
今日もぼくは きみの前で
もう一度死ぬ
(『花を見るように君を見る』収録『愛はいつも慣れない』より引用)
愛とはこうあるべきだと改めて気づかされた。愛は常に新鮮で新しい驚きと発見を教えてくれるべきものだ。慣れて新鮮味のなくなった愛は本来あるべき姿の愛ではない。それは未知との遭遇であり、その感動は永遠に続いていく。人が新たな出会いと別れを繰り返す中で、愛はその表情を変えていく。立ち消えてはまた生まれ変わって迫ってくる愛と人は人生をかけて付き合っていくのではないか。いつも違う顔を見せる愛に人は惹きつけられ、その虜になる。
ここで言う愛とは、単なる恋愛関係に留まらず、家族の絆や友情も含まれる。まさに愛に支えられて人は生きているといえるのではないか。愛を持って人を思いやることで、優しさや慈しみといった感情が生まれてくるのだ。
また、あどけない口調で世界について問いかける次の詩も印象に残った。
遠くから見ると ときに世界は
小さくて愛らしい
温かくさえ思える
ぼくはこの手で
世界の頭をなでてやる
寝起きの子どものように
世界はにっこり目を開けて
ぼくに向かって 笑いかけているよう
(『花を見るように君を見る』収録『まぶしい世界』より引用)
まるで幼子のような純粋な感性で世界を捉えた詩。確かに遠くから俯瞰して見ると、世界は無邪気な子どものように小さく愛らしく、温もりに包まれている。そんな世界を優しく撫でてやると、世界は天真爛漫な笑顔で応えてくれる。子どもの頃の純粋な心を失わず、愛をもって接すると愛が返って来ることを訴えかけている奥深い詩だと思った。
人は大人になるにつれて子どもの頃の純粋さはどうしても失われていくことも多いが、世界は子どもの心のまま人の善行も悪行も受け止める。環境破壊や紛争で傷ついた世界を悲しみ泣きじゃくる子どもをあやすような優しさで接してみるべきである。このようにさまざまな角度で愛についてすべての世代に再考を促す詩が満載の本書は、平和な世界を実現するための指南書ともいえる。
著者紹介
ナ・テジュ(羅泰株)
1945年、韓国・忠清南道生まれの作家・詩人。長らく小学校教師を勤めた後、黄條勤政勲章を授与される。公州文化院院長を歴任した後、現在は公州草花文学館詩人として活動する。多くの韓国ドラマで詩が取り上げられたことで、国内だけでなく海外からも話題を集めた。