ハ・テワン 著 呉 永雅 訳 マガジンハウス 刊
人生訓に溢れた珠玉のエッセイ集
人生の失敗から立ち直る気持ちの持ちようや恋愛の本質など、思わず共感せずにはいられない詩で溢れたエッセイ集。
著者が僕の視点から君にあてた愛溢れる珠玉のメッセージをこれでもかと詰め込んだ一冊。寂しさで胸が苦しくなった時、現状に悩み将来への不安で押しつぶされそうになった時、夢が潰えて自暴自棄になった時、本書を開けば、きっと救いの手が待ち受けていることだろう。
それは何も大きな落ち込みでなくても、ささいなことにフラストレーションが溜まって誰かに当たりそうになった時、ちょっとした嫉妬心が芽生えた時、ほんの少し怪我をしてイタッてなった時、どんな時でも本書を手に取れば励まされ、前を向く勇気が湧いてくる。
どのページからでもいい、ちょっとした流し読みでも前向きで優しい気分に浸れる、そんな作品だ。
どう失敗から立ち直るか
どんな人生にも失敗や挫折はつきものだ。誰もが羨む栄光を手にした成功者でも、いくつもの失敗体験を乗り越えてきたに違いない。本書を読んでいると、いくら失敗したっていい、問題はそこからどう立ち直るかだと教わった気がした。
なんでもないことのようだけど
目の前で、ずっと欲しかったものを逃したとき
「いずれにせよ、うまくいくことになってるんだから」
と考えることが
なにより重要だ。
そういう自信と前向きな考えが
結局は、きみがなによりも望んでいたところへ
連れていってくれるはずだから。
(『すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間』本文より引用)
私自身の経験と照らし合わせてみても、例えば大学受験で現役で第一志望の大学に落ちてしまった時。とても落ち込んだのを覚えているが、結局浪人して翌年に合格を手にするまでその悔しさは晴れなかった。
ただ現役で合格するよりも、悔しさを嚙み締めた分だけ、喜びもひとしおだったに違いない。後付けかもしれないが、この詩のようには前向きになれなかった私が、それでも成功だけを無理やり思い描いて努力した結果、成功に結び付いたのだと思う。
余談になるが、この詩を読んで真っ先に頭に浮かんだシーンがもうひとつある。それはパリ五輪の男子バレーボール準々決勝、イタリア戦。4度のマッチポイントを握りながらも、あと一点が遠かった。バレーボールファンとしては完璧な日本バレーができていただけに試合後、自分のことのように放心状態となってしまった。
実を言えば、いまだにその悔しさが体から抜けきれないでいるが、この詩を読んであの敗戦を受け入れようという気持ちに少しはなれた気がする。恥ずかしながら一視聴者である私がこの思いなのだから、選手たちにもこの敗戦はロス五輪でのメダル獲得につながる運命の一部だったんだと達成感に満ち溢れた笑顔で振り返ってもらいたい。
恋愛の核心
またまた個人的な話で恐縮だが、私は恋愛経験が非常に乏しい。その裏返しからかはよく分からないが、恋愛系の映画やドラマは好きでよく見る。そんなほぼ疑似恋愛しかしてこなかった私にも刺さる詩が本書には散見された。
愛
それは本当に一瞬でかなう。
でも
訪れた恋をスマートにつかまえられる人なのか
その愛をみずからの足で蹴ってしまう人なのかによって
その結末が変わるだけさ。
(『すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間』本文より引用)
私も大学入学後は髪色を染めたり、奇抜なファッションをしてみたり、異性を気にした大学デビュー的な事をいくつか試みたことはある。実際に、女性に好意を持たれたように感じることもあったが、恥ずかしさからか自分から避けるような言動をしてしまい、恋を取り逃がしてしまった。
あの時、もっと積極的になっていれば。この詩を読んで、改めてそう思わざるを得なかった。きっと恋に落ちる瞬間は偶発的にも必然的にも起きるものなのだろうが、その恋を成就できるかどうかは自ら歩み寄る姿勢が大事なのだ。相手に心を開いてまずは自分を知ってもらわなければ、恋は始まらない。
今回のレビューでは少々個人的な話を盛り込みすぎた感が否めないが、それ位本書には、自分の経験や主観をついつい重ね合わせてしまう心憎い詩で溢れている。皆さんも是非、本書を本棚の片隅に置き、ふとした時にさっと開いて、追憶と共感の旅を満喫してほしい。
著者紹介
ハ・テワン 韓国の作家、詩人。SNSを中心に話題を集め、エッセイ集『#君に』でデビュー。2作目の『すべての瞬間が君だった きらきら輝いていた僕たちの時間』は一大ブームを巻き起こした。2018年、「YES24今年の本賞」を受賞。