現代社会における女性の生きづらさを描いた話題作
韓国で社会現象となったチョ・ナムジュ著のベストセラー小説を映像化。主人公ジヨンの幼少期から現在までの人生を通じて、現代社会で女性が直面する生きづらさや閉塞感を描いた話題作。葛藤を抱える女性を演じたチョン・ユミ、妻を温かく見守る夫を演じたコン・ユの演技が作品を盛り立てる。
主人公ジヨンは結婚を機に仕事から離れ、育児に専念するようになる。育児に忙殺される日々を送る中で、いつしか彼女の中で何かが壊れ始める。誰にも言えない閉塞感を抱え、ある日から他人に憑依したかのような言動をとるようになる。夫のデヒョンはそんな妻の異変に気づきながらも、真実を告げられずにいた。
鬱積していく感情の正体
本作では韓国の現代社会で女性が抱える生きづらさが分かるエピソードがいくつか登場する。まずジヨンが大学卒業後働いた広告代理店では男性と比べてキャリアアップの機会が限られており、女性蔑視も多かった。例えば、女性であるため重要なプロジェクトではなく雑用を任されたり、男性の同僚は昇進するなか自分は昇進できないなど。
次に結婚と妊娠を機に半ば追い出される形で仕事を辞め、専業主婦として育児に忙殺される日々を送るようになる。その際も育児休暇の理解を同僚や上司から得られなかった。また夫の実家でも姑との関係は良好とは言えず、孤立してしまう。そして子育てが落ち着いた後、再就職しようとするが、年齢やブランクから風当たりは強く、社会復帰の難しさを感じる。
このような困難に直面してもジヨンは大きな反抗もせず、誰にも自分の悩みを打ち明けられず、負の感情が鬱積していく。私は悩みがあるとすぐに家族に相談してしまうタイプなので、ジヨンを見ていると夫でもいいから早く相談できる相手を見つけて相談すればよいのにともどかしく思ってしまった。ただ置かれた立場や相手の負担も考えるとそんな簡単に悩みを打ち明けられないのも分かる気がするが。きっと心の病に罹りやすい人はジヨンのように内向的で繊細な人が多いのではないか。閉塞的な社会になっても、困っている人のSOSを見て見ぬふりをせず、ちょっとした言葉でもいいからその人が欲している言葉をかけられる優しさを持ちたいものだ。
現代社会で女性が直面する問題
確かに私は女性ではないのでジヨンに完全に共感しづらい面もあった。だが男性が女性に歩み寄る姿勢を見せないと男女平等は実現しないと思った。私も女性が社会で活躍している姿をニュースなどで見ると新鮮な気持ちで応援したくなる反面、男性ほど野心がないのではないか、行動力に欠けるのではないかなど少々偏見を持って見てしまうのも否めない。このような偏見をなくすには頭ごなしに正論を言われるだけでは十分ではなく、周囲で活躍している女性を常日頃から実際に目で見て実体験として女性のポテンシャルを体感する必要があるのではないか。
本作で描かれている女性の生きづらさは現代においては世界共通だろう。職場での男女平等は進んでいるのは確かだが、やはり組織の上層部には男性が多いのが現状ではないか。確かに体力面など男性には劣るかもしれないが、女性にしか備わらない資質もあるはずだ。例えば、女性は子供を産んで育てる性のため男性には乏しい優しさや気遣いがある気がする。多様性というワードをそこかしこで耳にする昨今、女性と男性という二項対立した古い概念を超えて、互いの性の足りない面を補いあうような制度を構築することが現代社会で求められているのではないだろうか。
演技派が夫婦として共演
実のところ、本作は私が初めて見た韓国映画だが、俳優陣の演技力は目を見張るものがあった。K-POPや韓国ドラマなどで韓国はエンタメ産業が進んでいることはもちろん知っていたが、実際に見てみてその先進性に納得がいった。俳優陣の演技だけでなく、映像技術や展開の速さ、サウンドなど。
例えば、ジヨンが他人に憑依したかのような言動を見せるシーンでは、巧みなカメラワークと音響でジヨンの内に秘めた苦しみや葛藤を浮かび上がらせる。また過去に話が飛ぶ際も、色調を変えることで現在とのコントラストを生み出している。そして家庭、職場、過去と現在など場面の切り替えも早く、美しい音色のピアノと弦楽器を中心とした挿入歌はジヨンの内面の変化を上手く表現している。
主人公ジヨンを演じたチョン・ユミは職場や夫の家族から孤立し、次第に閉塞感から病んでいくさまを見事に演じた。子育てに奔走する際は無理やりにでも張り切って娘に笑顔を振りまくが、一人になった際は葛藤を抱えていることが表情からありありと分かる。言葉に出さずとも表情で葛藤を表現する演技は圧巻だった。デビュー後すぐの出演作『親知らず』で注目されると、映画『家族の誕生』で青龍映画賞助演女優賞を受賞。ヒット作『新感染 ファイナル・エクスプレス』などドラマより映画での活動を主とする。
またジヨンの夫を演じたコン・ユはいつも妻に理解を示し、妻が病んだ際は誰よりも親身になって心配する優しい夫を丁寧に演じてみせた。私は演技の上手い俳優を見ていると、ついつい役と俳優を同一視してしまうクセがあるのだが、コン・ユの演技もまさにそうだった。内面から出る優しさがにじみ出ていた。ドラマ『コーヒープリンス1号店』の大ヒットでその名を世間に知らしめ、その後も映画『男と女』や『新感染 ファイナル・エクスプレス』、ドラマ『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』などに出演。
公式サイト:https://klockworx-asia.com/kimjiyoung1982/
キム・ドヨン監督
チョン・ユミ、コン・ユ 主演
キム・ドヨン監督が初めて手掛けた長編映画。韓国で観客動員数367万人を記録し、日本では2020年10月9日に劇場公開された。特に日本での反響は大きく、女性の社会進出、女性の権利、ジェンダー問題などについての論争を巻き起こした。
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