映画・ドラマ

ドラマレビュー「ベロニーにまつわるウワサ話 シーズン2」

ドラマ史上究極の「茶飲み」ミステリーがさらにパワーアップ

証拠も、思い込みも、覆される。何が彼らをここまで駆り立てるのか?衝撃のエンディングで伝説化したタミル犯罪捜査スリラーのシーズン2配信開始。

もし「刑事ドラマには見えないタイトルランキング」があれば、間違いなくトップ5くらいに入りそうなのが、『ベロニーにまつわるウワサ話』。童話のような響きに誘われ、うっかり観始めたら、クセの強ーい南インドの濃厚オヤジ刑事デカたちに囲まれて、気がついたらどっぷり物語の世界に浸っていた。

そんなシーズン1の結末から4年——ついにシーズン2の配信が開始された。今回も、クリエイティブ・プロデューサーはプシュカル&ガーヤトリ夫妻、脚本と監督はアンドリュー・ルイスだ。

タミル・ナードゥ州マドゥライ近郊のハイウェイ建設現場で身元不明の白骨死体が発見される。パダムバトゥール警察署に赴任したばかりのムーサ・ラーザ警部補は身元を特定するよう命じられ、恋人と妹の殺害容疑で服役中の青年マニに辿り着く。だが証言の矛盾、DNA鑑定をめぐる思わぬ展開、そして関係者たちがそれぞれ抱えていた秘密が少しずつ明らかになり、事件は予想しなかった方向へと転がっていく。

マドゥライ近郊、コブラの森のあごヒゲ刑事ムーサ

シーズン2の主人公であるムーサ・ラーザ警部補は、日本でも公開されたタミル映画『ツーリストファミリー』の父親役で知られるシャシクマールが演じる。眼光鋭く、やたらに熱く、声も大きいシーズン1のS・J・スーリヤー演じるヴィヴェック警部補とは対照的で、実直で控えめ、温和な印象だ。

彼が赴任したマドゥライ近郊にあるパダムバトゥール署(架空の署)はコブラが棲む森に囲まれ、廃墟のようにも見える建物だ。本人曰く左遷である。

ムーサはイスラム教徒で、あごヒゲを生やしていることからこれまで14回も異動させられており、たまりかねて訴訟を起こすも、裁判と礼拝の時刻が重なり、裁判は延期になってしまう。

妻のスマヤは現在妊娠中。なかなか子宝に恵まれず、3年前にメッカへ巡礼後、あごヒゲを生やしはじめ、そのかいあってか結婚8年目にしてようやく授かった(なので剃りたくないのだ)。

決して恵まれているとはいえない苦労人。だが、信念をもって、やるべきことをコツコツと進めていく男なのだ。

ちなみに、タイトルにある「ベロニー」はシーズン2には登場しない。彼女はシーズン1の被害者で、事件は既に解決している。このドラマシリーズはタミル語で「噂」を意味する「ヴァダンディ」というタイトルのもと、シーズンごとに主人公も事件も入れ替わるアンソロジー形式で、シーズン2の副題は 『The Mystery of Mani(マニにまつわる謎)』。ベロニーとは全く別の物語だ。

たった一つのリクエストは、おとぼけバディ

中央政府が進めるハイウェイ建設の起工式で白骨死体が発見された事件は、道路建設に反対する州政府が仕組んだものではないかとも報道され、世間でも警察内でも注目度が高い。事件には関わりたくなかったムーサだが、警視から身元特定捜査を頼まれる。

そこでムーサがリクエストしたのは、シーズン1でビベックとバディを組んだラーマル警部補。「おとぼけラーマル」、実は結構たよりにされる存在のようだ。ラーマルとどこでつながっていたのかについては、ムーサは「答えたくない」そうである(気になる!)。

前シリーズの世界観とゆるくつながり、ビベックの話や、ベロニー事件の話も時折飛び出すが、シーズン2から観始めても問題なく楽しめる。

今回も予測がつかない展開に引き込まれる

最後の最後まで驚くような展開が続いたシーズン1だったが、遺体に残された手がかりは多かった。

だが今回の被害者は、性別も年齢もわからない白骨死体。DNA鑑定をするにしてもサンプルもない。いったいどうやって身元を調べるのか? しかも片腕がないという不気味さだ。

ムーサは、タミルの牛追い祭りジャッリカットゥの名人で、妹ベンバと恋人ニラバンティを殺した容疑で2年前から刑務所に収監されているマニに辿り着くも、なぜか彼は口を閉ざしたまま。

さらには嘘がないはずのDNA鑑定の結果にも、捜査は翻弄されていく。

奇妙で不可解な事件を幾重にも肉付けしていくのが、異様に詳細なサブプロットや人物・背景設定だ。

この「異様に詳細」というのが、実はこのドラマシリーズ最大の面白さでもある。捜査と同じくらい、いやそれ以上に、画面の隅々の作り込みがすごい。中でも一番驚かされたのが、今回もお茶だった。

究極の「茶飲み」ミステリードラマ

シーズン1のレビューでも、お茶(いわゆるチャイ。タミルでは単純にティーと呼ぶ)に注目したが、シーズン2では「茶飲み度」がさらにパワーアップしていた。

第1話の6分あたりで早くも最初のティーが登場する。皆が「息をするように」お茶を飲み、ラーマルと二人で回ったモハン巡査長は、「お茶を飲みすぎました。先輩がどの家でももらうんです」とムーサにこぼすほどだ。

パダムバトゥール署にティーを運んでくるけなげな少年ディリップの存在や、極めつけは、ヴァーストゥ(ヒンドゥー教の風水)が良くないからと、警察署でなくお茶屋で仕事をする定年間近の警部の登場だ(日本語字幕では風水のことまでは語られていない)。お茶飲み放題に違いない。

一方、コーヒーが出てきたのはわずか数回。ムーサの自宅や実家ではタンブラーで飲む伝統的な南インド式フィルターコーヒー、一方ラティカ警視と夫スクマランがカップ&ソーサーで優雅に飲むコーヒーは、インスタントかもしくはスペシャルティーコーヒーの類いか。

タミル中南部のマドゥライ近郊は、大コーヒー圏の真っ只中のはずだがここまでティー推しなのはどんな理由だろう。

もしかすると、お茶が飲まれる場所こそが、このシリーズ全体のタイトル「ヴァダンディ(噂)」の舞台そのものということだろうか。噂話が飛び交う場所であり、時に実質的な捜査拠点にもなる。

とにかく、こんなにもお茶を飲み続ける映画やドラマを他に知らない。個人的には「ティー」こそが最大のミステリーだと思っている。ひきつづき「捜査」を続けたい。

パダムバトゥール署の名物はマトンビリヤーニ

お茶だけでなく、食のシーンも見逃せない。うまいなーと思ったのが、夜、仕事が終わって私服になった警官たちが、署の外で夕食を作るシーンだ。

地面に食材が並び、ムーサは大きな寸胴鍋の前に立っている。どうやらこの日のメニューはマトンビリヤーニ。でも「ビリヤーニを作ってます」なんてセリフはないし、出来上がった料理をアップで見せることもないのがポイントだ。

あくまで捜査やらその他の世間話の背景として流れていく調理シーンなのだが、手順が丁寧で、よくよく見てたら付け合せのライタまできっちり作っている。女性警官ポルチェルビ(名前がかわいい!)がいるのに、仕切っているのはイスラム教徒で料理上手なムーサだというのが憎い。

別のシーンでは、妻のために休みを取ったムーサが、アッパムとマトンコランブの朝食を作ってスマヤに振る舞っていた。そういえばシーズン1ではラマールが妻にドーサを焼くシーンが出てきた。女性=料理でなくあえて男性ばかりに料理をさせているのも、ステレオタイプに対する挑戦だろうか。

男前女性警視と猛烈アタック女子

そういう意味では、ムーサの上司ラティカ・ナイール警視の存在も重要な視点となる。

夫で弁護士のスクマランとは恋愛結婚で、一緒に警官を目指すも彼女だけが合格してしまったという才女で、家では夫に気を使ってはいる。だが警察という男社会で、警視に登りつめた彼女は惚れ惚れするほど「男前」で、「失敗したら私が責任を取るから」と、ムーサに捜査を任せるのだ。

同様に、マニの恋人ニラーバンティが、ストーカー並みの激しさでマニに猛アタックする様子も、どちらかというと受け身の存在として描かれることが多いタミル女性の姿としてはかなり新鮮だった。

このシリーズだけでなく、プシュカル&ガーヤトリ夫妻が関わる作品全体に言えることだが、社会的通念や既成概念を覆す仕組みが散りばめられており、観る者はある意味試されているような気さえする。

名前一つで扉が閉じてしまう社会のなかで

逆に、主人公ムーサを取り巻く厳しい現実をありのままに描いているのも興味深い。警官、しかもイスラム教徒であることから、赴任先で家がなかなか見つからないのだが、その理由が「イスラム教徒だから」ではなく、「ムーサという名前だから」と語られる。名前一つで宗教が分かり、たとえば電話一本で断られる。固有名詞一つで扉が閉じる生々しさがわかるセリフだ。

それでもムーサは霊安室で遺体を確認する前、署内に祀られたヒンドゥー教の祭壇の聖灰をまちがって差し出されても、拒まずに受け取る。宗教的自由を認めてほしいと裁判を起こすほど信仰心が強い男が、他者の信仰にも同じ度量を見せる。人間としての彼の奥行きが伝わってくるシーンだった。

朴訥なムーサだが、じっくり見てみるとなかなかユニークなキャラクターだ。語学に興味を持ち、タミル・ナードゥ州のお隣ケーララ州の言語マラヤーラムを話せたり、「嘘は雑草のように広がる。真実は土に埋まったダイヤモンドだ」などとタミルの古典詩人のようなことを言ったりする。

雄牛のつむじを知り尽くす男マニ

ムーサー個人の物語だけでなく、土地の文化そのものにも深い物語がある。今回、タミル文化を象徴的に描いているのが、謎めいた青年マニが、ジャッリカットゥという牛追い祭りの名手であることだ。

ジャッリカットゥとは獰猛な雄牛の背中のこぶにしがみつく伝統競技で、毎年1月中旬に行われるタミルの収穫祭ポンガルの時期に行われる。

マニはまだ誰も制したことがない牛のコブに見事捕まり一躍ヒーローになる。実際、雄牛愛に溢れた男なのだ。

面白かったのが、マニの雄牛ウンチク。いい牛はつむじを見ればわかるそうで、種類は21もあるという。調べてみると、牛のつむじの吉兆はタミルの農民社会で民間信仰的に信じれられおり、たとえば、エールプーランというヤスデ形のつむじは、あらゆる富と幸運がもたらされるらしい。牛がタミルの人々にとってどれだけ大きな存在であるかが感じられる。

マニは、生まれてすぐに孤児となり、長くは生きられないと言われた子牛をひきとり、カーリと名付けてかわいがる心優しい青年でもある。

そんな彼はどうして事件に巻き込まれるようなことになったのか。

セリフにでてこない小道具や、捜査とは直接関係ない細かな背景までじっくり楽しみながら、ドラマを見てほしい。

シーズン3はあるのか?あってほしい!

製作のプシュカル&ガーヤトリ夫妻へのインタビュー記事によれば、脚本も手掛けたアンドリュー・ルイス監督は、米国の犯罪捜査ドラマ『TRUE DETECTIVE/二人の刑事』のようにシーズンごとに主人公から変わるアンソロジースタイルを最初から意識していたのだという。

日本語版タイトルがシーズン1の副題のままで、内容と噛み合わなくなってしまったのは、この挑戦が生んだ小さな混乱の一つではあるが、シーズン3も観たい、ぜひ作ってほしい!

SNSで人気のコンテンツクリエイターがヒーローに

最後に、俳優陣や制作陣についても軽く触れておこう。ムーサを演じるシャシクマールを囲む俳優陣は個性派ぞろいだ。

シーズン1からのリカーリングはラーマル役のヴィヴェーク・プラサンナ。タミル映画の名脇役として知られる。2024年に日本で公開されたタミル映画『ただ空高く舞え』にも出演。日本でも上映されたプシュカル&ガーヤトリ作品にタミル映画『ヴィクラムとヴェーダー』がある。

注目したいのは、マニ役のヤシュワントだ。SNSで人気のコンテンツクリエイターで、最初はマニの友人の1人であるプラバー役だったが、最終的に主演を演じることになったのだという。いかにもマドゥライあたりにいそうな威勢のいい青年役を自然体で演じている。

マニの恋人ニラバンティ役を演じたレーヴァティ・サルマーは、2025年公開のマラヤーラム映画『Thalavara』で2026年度の南インド国際映画賞で新人賞にノミネートされている。今後の活躍が楽しみだ。

ラティカ・ナイール警視役のアナーガ、ムーサの妻スマヤ役のアパルナ・ダスは、マラヤーラム映画とタミル映画の両方で活躍する実力派。ラティカの夫スクマラン役のアルジュン・ナンダクマールは俳優としてだけでなくクリケット選手としても知られる。

監督・脚本のアンドリュー・ルイスは、ヴィジャイ・セードゥパティ主演、注目のタミル映画『Pocket Novel』の脚本を担当しており、公開が待ち望まれている。

クリエイティブ・プロデューサーのプシュカル&ガーヤトリ夫妻は、製作だけでなくクリエイターも務めた『エグザム』が2026年5月からAmazon Prime Videoで配信開始となっている。今まさにインドで大きな社会問題になっている試験の不正や問題流出ネットワークを描いた犯罪捜査ドラマでこちらも必見だ。

Amazon Prime Videoでの視聴はこちら


ドラマ『ベロニーにまつわるウワサ話 シーズン 2
アンドリュー・ルイス 監督 

プシュカル&ガーヤトリ 製作

シャシクマール、 ヤシュワント 主演

1話39〜47分、全8話

Amazon Primeでは、さまざまなアジアドラマがお楽しみいただけます。登録はこちらから!

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
吉井 朱美

ライター、食文化研究家、味わう読書家。 幼い頃から「なんでも食べ、なんでも読む」を信条に育つ。 留学先の豪州・アデレードの学生寮で多彩なスパイスの香りと予期せぬ出会いを経験。それをきっかけに南インドへ渡り、10年以上滞在。 文章を通して、さまざまな境界を越えながら世界を味わい直す旅を続けている。

  1. ドラマレビュー「ベロニーにまつわるウワサ話 シーズン2」

  2. 書籍レビュー「頂点都市」 (創元SF文庫)

  3. 楊双子作『台湾漫遊鉄道のふたり』英語版が国際ブッカー賞受賞!いま読みたい邦訳作品全ガイド

特集記事

RELATED

PAGE TOP