映画・ドラマ

映画レビュー「システム」

法と社会、その不条理に迫り、正義の意味を問う、インド発のリーガルサスペンス

父親に「プリンセス」と呼ばれるエリート検事と、障害のある夫と娘を養いながらつつましく暮らす法廷速記者。二人が出会う時、社会と法曹界、この2つのシステムの不条理と矛盾があらわになる……。

有名弁護士を父に持ち、生まれついて裕福なネハは、自らも法曹界に足を踏み入れ、検事としてのキャリアを積んでいた。しかし父にはなかなか認めてもらえず、父の経営する法律事務所にも入れてもらえない。「10回連続で勝訴すれば、私の法律事務所に入れてあげよう」という父。その挑戦を受けて立ったはいいものの、どうやってこれを成し遂げよう……そんな時、ふとしたことから、法廷速記者のサリカと個人的に言葉を交わす機会を持つ。

対照的な二人の女性が織りなす物語

裕福で聡明、見た目もゴージャスなお嬢様のネハ。小さなアパートに暮らし、副業もしながら夫と娘を養っている中年女性のサリカ。この二人はあまりにも違いすぎる。それでもネハはサリカが速記者という中立な立場で長年多くの訴訟を見てきた経験の豊富さと、その優れた見識を見込んで、彼女を「協力者」として雇う。

持てる者と、持たざる者。残念なことに、インド社会において、いまだにこの二者の分断ははっきりしている。現実には友達になることさえ難しいだろう。

サリカには手に職があり、決して最下層の人間ではないが、暮らしぶりを見ると中流とまではいえないように思える。使用人を2、3人雇えてはじめて中流。それがインドのスタンダードだ。

現実的にあり得ることかどうかはさておき、この二人の関係はなかなか興味深い。サリカは少し引き気味のところもあるものの(そしてこれにはもちろん、理由があるが……)、ネハはサリカを自宅に招くことも、サリカのアパートを訪れ、夫や娘と交流することにも、てらいがない。このあたりは彼女のお嬢様育ちのなせる業か。また、彼女のまっすぐで純粋な性格の現れでもあるように思う。まさにディズニープリンセス的キャラクター。

それに対し、サリカの人物描写は少し複雑で、感情移入しにくいキャラクターかもしれない。というのも、彼女の行動には不可解なところがいくつかある。優秀で、目が利いて、ダンスフロアで陽気に踊る、ちょっとお茶目なところもある中年女性。だが、それだけの人物ではない。

暴かれる真相……後半の展開に注目

物語の後半、ネハが10件目の訴訟を手がけるところから、物語は意外な展開を見せ、伏線も回収されていく。

そして、それまでの事件の背景にある、ある人物の意図が明らかになっていく。その人物は、文字通り自分の持てるものすべてを駆使して、目的を達成しようとする。ネハはその意図を意識しないうちに、知らずに手助けをしているのである。

すべてを知った時、ネハはそれをどのように受け取り、どう行動するのか。そこに法律家としてだけでなく、人間としての彼女の成長を見ることができる。ラストの覚悟と決断に注目してほしい。

わたしたちが信じる「正義」の正体

もちろん主人公の成長も見どころではあるのだが、これは単なるお嬢様の成長物語ではない。

一つひとつの訴訟の背景に社会の不条理や矛盾、法の限界が見え隠れする。法廷とは、犯人を裁き、正義を成す場所と思っているのであれば、それは思い違い。現行犯逮捕でもない限り、被告が実際に「罪を犯した」ということを立証できなければ、裁くことさえできないのだ。

無料の法律相談所の弁護士の仕事が、社会的に弱い立場にある被害者に「金持ちや大物を相手に訴訟を起こしても勝てるわけがない、あきらめたほうがいい」と諭すこととは、なんとも切ない。

数か月前に見た、社会の不正を暴こうと奮闘する女性記者たちの姿をとらえたインド制作のドキュメンタリー映画『燃えあがる女性記者たち』を思い出した。これと同じようなことが、おそらく現実でも起こっているのだろう。

正義とは何なのか? リーガルもののドラマや映画で必ず突きつけられる命題だが、この作品を見終わった後に、ぜひあなたにも考えてほしい。

最後に、キャスト紹介

主人公のネハ・ラジヴァンシュを演じるのは、ソーナークシー・シンハー。まさに正統派インド美女というルックスの彼女。現代的な服装も似合うけれど、伝統的なサリー姿も素敵(残念ながら本作では見られないが)。

ソーナークシー自身、有名俳優にして政治家であるシャトルガン・シンハーを父に持つ二世俳優であり、おそらく実生活でも本作と同じような葛藤を経験しているのだろう。コメディ、ロマンス、社会派、アクションスリラー、あらゆるジャンルの作品を精力的にこなし、最近では、実話に基づいた火星探査機開発に尽力する科学者たちの姿を描いた『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』(2019)で若き女性科学者の一人を演じている。

自身のYouTubeチャンネルも持っており、メイク動画ではすっぴんも晒し、セレブな暮らしをしながらも飾らない人柄がうかがえる。

サリカを演じるジョティーカーは、日本での知名度は高くないものの、インド国内の映画祭で主演女優賞、助演女優賞を何度も受賞している演技派俳優。1998年のデビュー作、ロマンチックコメディ『Doli Saja Ke Rakhna』(日本未公開)ではキュートなヒロインを演じ、二つの映画祭で新人女優賞にノミネートされている。 非常に繊細な演技をする俳優。彼女のしぐさや表情の一つひとつに、謎を紐解くヒントが隠されている。ぜひ注目を。


映画『システム』

アシュウィニ・アイエル・ティワリ 監督

ソーナークシー・シンハー、ジョーティカー主演

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川嶋ミチ

翻訳家、ライター。神奈川県生まれ。アジア、ヨーロッパの国々を飛び回り、出産を機に神奈川に舞い戻る。活字中毒。このサイトのキュレーターを務める。

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