2017年韓国映画界最大のヒット作
「光州事件」の日々を舞台にしたタクシー運転手の冒険の顛末。主演は韓国の国民的俳優ソン・ガンホ
本作は1980年5月に韓国の光州で起きた「光州事件」という民主化運動にまつわるある実話を元にした映画だ。
だが「実話ベース」であることはいったん忘れて観るのがいちばん幸せなタイプの作品ではないかと思う。そこに意識が行ってしまうと、どこまでがフィクションでどこまでが実際にあったことなのか始終気になってしまうからだ。
『タクシー運転手』は2017年に韓国映画界最大のヒット作で、主演は同国の国民的俳優ソン・ガンホ(ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』、是枝弘和監督『ベイビー・ブローカー』など)で、物語の主な舞台は半島南部の大都市、光州、時代は光州事件が発生中の1980年5月、日本の俳優でいえば西田敏行と佐藤二郎を足して2で割ったみたいなガンホが演じるのは、男手ひとりで娘を育てる苦労人のタクシー運転手——前知識はここまでで十分。
光州事件が具体的にどんな事件であったかもとりあえず知らなくていい。軍事独裁政権下にあった韓国が民主化を果たすまでの歴史の流れのなかで大きな転換点となった重要な民主化運動だが、その辺の細かいことはまったく知らなくていい。誤解を恐れずに言えば、むしろ知らないほうが、作品を魂の部分で純粋に楽しめるかもしれない。
キム・マンソプの緑色のタクシーで光州へ

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なぜならソウルに暮らす主役の個人タクシー運転手キム・マンソプにしても、最初は光州で何が起きているのか何も知らず、関心を持とうともしない、ごく普通のノンポリおじさんだからだ。
それがうまい儲け話に釣られて、外国人ジャーナリストを乗せたタクシーごと戒厳令下の光州に飛びこんでいく羽目になり、事件の実態を目のあたりにするにつれて徐々に意識が変わっていき、ついには——というキムの変容の追体験にこそ、本作の最大の魅力があるように思う。そう「タクシー運転手」はドキュメンタリー性もあるが、何よりまず人間ドラマなのだ。
ならば観客のあなたも余計なことは考えずに、キムの運転する緑色の個人タクシーに乗って、彼と同じ体験をして、一緒に泣いたり笑ったりしたほうがいい。
そして光州では、へとへとになったキムと一緒に夜、タクシー運転手仲間の家にいきなりお邪魔して、奥さんが何もありませんがと言いながら用意してくれる何種類ものキムチをつまみながら、みんなとマッコリを呑んでほしい。
あの場面は実によかった。学生の下手な歌もよかった。おかげでそのあとの展開が余計に泣けた。ああしたことが事件の日々には実際、たくさんあったのだろう。
どこまで史実?
だから「光州事件」について学ぶのは観覧後でいい。そして映画と史実との相違点がどうしても気になるのならば、キム・マンソプのモデルとなったタクシー運転手「キム・サボク」の名をネットで検索してみるといい。韓国の「東亜日報」「ハンギョレ新聞」のサイトにキム・サボク氏の息子、スンピルさんのインタビュー記事がある。
最後にあなたが日本人読者であれば、同じ光州で日本統治時代の1929年11月に「光州学生運動」という独立運動があった史実も記憶しておきたい。
(原題 택시운전사/英題 A Taxi Driver)
配給:クロックワークス
チャン・フン 監督
ソン・ガンホ 主演

『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』
Blu-ray&DVD好評発売中!
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
提供:クロックワークス/博報堂DYミュージック&ピクチャーズ
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