中華圏最高峰の映画賞「金馬奨」で数々の賞を受賞した台湾ファンタジーロマンス
独特な台湾の恋愛観や時間感覚が魅力的で、斬新な物語の展開や俳優陣の演技にも惹きこまれる
時間感覚がワンテンポ早いアラサー女子ヤン・シャオチーと、ワンテンポ遅いアラサー男子ウー・グアタイの奇妙な恋愛を描いたファンタジー。
郵便局で働くシャオチーは、ある日、ハンサムなダンス講師リウと公園で出会い、バレンタインにデートの約束をする。でも、目覚めるとバレンタインデーを通り越しその翌日になっていた。
シャオチーは、毎日郵便局にやってくるワンテンポ遅いバス運転手のグアタイがこの謎の鍵を握っていることに勘付く。彼女は行方不明のバレンタインデーの謎を解き明かすべく奔走するが、果たしてどんな結末が待ち受けているのか?
独特な台湾の恋愛観
本作では両極端の二人が恋愛関係を育んでいく過程で、日本にも見習ってほしい台湾の互いの個性を認め合う恋愛観が主題だ。
亡くなった一日の謎を解き明かすべく二人が協力していく中で、シャオチーの思い切りのよい迅速な行動力とグアタイの慎重な用意周到さが相乗効果を生んでいる。
時間感覚が両極端の二人は最初はお互いのペースに戸惑いながらも、互いの弱さを補う合うように自分にない感性に惹かれていき、次第にお互いをリスペクトしあってウィンウィンな関係を築いていく様には思わずほっこりした。
私個人の印象になるが、日本は個性を認めることに関しては少し排他的なところがあるように思う。良くも悪くも出る杭は打たれ、批判や嘲笑の的にされる。それでは突出した個性が秘めるポテンシャルを活かせないではないか。
昨今はテレビドラマやYouTubeなどでも弱者や風変わりな人物も心を開いて自己発信すれば、それが魅力に変わって周りも認めようとする流れもあり、それは良い風潮ともとれる。
あなたの周りの人も多様性を認めることが言うは易し行うは難しになってはいないだろうか。少しでも思い当たる節がある人は、本作を見て個性を認めるとはどういうことかを考えてみては。
魅力的な台湾時間⁉
本作には独特な時間感覚が全体を流れている。シャオチーの時間感覚が早いのは物語の設定上、仕方のないことなのだが、それを際立たせるかのようにどこかゆったりとした雰囲気が物語を満たしている。
例えば、主人公二人が台湾の港町に行くと、町全体がとてものどかで独特な風情を醸し出していた。日本では絶えず時間に追われどこか殺伐とした時間感覚が主だが、台湾の時間感覚は良い意味でルーズで、そこに魅力を感じた。
私は旅行で沖縄(離島も含む)に何度も行ったことがあるが、そこの時間感覚と台湾のそれは似ているように感じた。沖縄に行く度に毎回思うことだが、レストランや交通機関の時間感覚が東京と違ってルーズでゆったりとしている。
ある種錯覚に囚われた感覚にも陥る沖縄時間だが、その非日常感とゆったり感に日常の喧騒を忘れるための癒しを人は見つけるのだろう。本作の沖縄時間ならぬ台湾時間に浸りながら、同じことを感じた。
斬新な展開と主演二人の演技力

©MandarinVision Co, Ltd
私は数々の恋愛映画を見てきたが、本作のような展開は初めて見た。主人公二人の視点で個別に物語が展開され、最後にそれらのエピソードがつながっていくのだ。
最初はとっつきにくかったが、見終える頃にはこのような展開もありだなと感じてしまった。正直、時間感覚が真逆の二人の視点で、まるで別の物語のように前半と後半に分けてエピソードが紹介されていく時は、少し斬新すぎる気がした。
だがこのような展開の方が二人の主人公の個性や世界観が分かりやすいし、何しろ別々の物語が最後にひとつの物語として上手く合体する展開には爽快感も覚えた。
シャオチー役のリー・ペイユーは台湾の最難関私立大を卒業した後、広告モデルのキャリアをスタートさせ、ドラマや映画だけでなくイベントやTV番組の司会役として主に活動している。そこで培った明るいキャラクターが本作でも活かされている。
グアタイ役のリウ・グァンティンはテンポは遅いが純粋な男の役を見事に演じてみせた。ヒットドラマシリーズ『フローラAという名前の少年』でゴールデン・ベル賞の最優秀助演男優賞を受賞。2019 年には、映画『太陽』で第 56 回金馬賞で最優秀助演男優賞を受賞した。
本作の監督チェン・ユーシュンは、1995年、『熱帯魚』で長編監督デビュー。同作は商業的に成功し、国内外で高い評価を得てスイスのロカルノ国際映画祭にて青豹賞を受賞。その後長らくCM業界に活動の場を移していたが、2010年頃から映画界に復帰し、2020年、『1秒先の彼女』で金馬奨の監督賞と脚本賞を受賞した。
映画『1秒先の彼女』
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/ichi-kano/
チェン・ユーシュン監督
リー・ペイユー、リウ・グァンティン主演
2020年公開の台湾映画。第57回金馬奨で作品賞、監督賞、脚本賞、編集賞、視覚効果賞を受賞。2023年に『1秒先の彼』のタイトルで日本版のリメイク映画が公開された。

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